米国での証券化と航空機リース

背景
不動産の証券化
米国において資産を証券化して売却するセキュリタイゼーションが急成長したのは1980年代だが、その起源は1970年代に政府抵当金庫(GNMA:ジニーメイ)が連邦住宅局(FHA)、退役軍人局(VA)らのモーゲージローンを保証し発行されたGNMAパススルー証券に遡る。1971年には連邦政府の間接機関である連邦住宅抵当貸付銀行(FHLMC:フレディマック)がパススルー証券を発行し1970年代はこれら政府系機関による住宅抵当ローン債権の証券化が発展した。

1981年には連邦抵当金庫(FNMA:ファニーメイ)がモーゲージ証券(MBS)を発行、1983年にはフレディマックがペイスルー証券であるCMOCollateralized Mortgage Obligation:モーゲージ担保債務証書)を発行した。以後、様々なバリエーションが考え出されるとともに、対象資産は商業用不動産(CMBSCommercial Mortgage Backed Securities)にも広がった。

1989年にはRTC(整理信託公社)が設立され、経営破綻に陥ったS&L(貯蓄貸付組合)のモーゲージ貸付債権の回収に証券化の手法が用いられた。

この他代表的な商品として米国には不動産共同投資商品として、不動産投資信託(REIT:リート)、マスター・リミテッド・パートナーシップ(MLP:不動産を所有するリミテッド・パートナーシップの持分で上場したり、店頭市場で取引されているもの)などがあり、不動産の証券化が盛んに行われている。

日本の不動産関連の投資商品としては、不動産の抵当権とこの抵当権によって担保される金銭債権を、一体のものとして一枚の証書に転記した抵当証券がある。これは1931年施行の抵当証券法に基づいた有価証券だが、証券取引法上の有価証券ではない。しかし、抵当権を有する債権者の申請により登記所によって発行され、手形と同じように裏書欄に署名・捺印して譲渡することが出来る点でセキュリタイゼーションの先駆と言える。

 

資産担保証券

資産担保証券(ABSAsset Backed Securities

以上の様に、米国ではモーゲージローン(住宅抵当貸付)の証券化から始まり、180年代には商業用不動産、自動車ローン、クレジットカード債権、リース債権、企業の売掛債権等を裏付けとする資産担保証券の発行へと発展した。現在では映画の製作費用調達の為に発行し、回収は興行収益からと言った、将来債権を担保とした商品も開発されている。

資産担保証券はリース料債権などの資産を裏付けとして発行され、その資産から生じるキャッシュフローで利払い・償還を行う証券のことを言う。つまり、ある特定の資産を原債権者の資産から切り離し、証券発行専門体に分離し、その分離された資産から得られる資金のみを利払い・償還の原資とする証券と言う事になる。

資産担保証券は投資家への利払い・償還が確実に行えるような仕組みにする必要がある。まず、対象資産を原債権者から資産担保証券の発行体に譲渡して原債権者から法律上分離して、万一原債権者が倒産したとしても、証券の裏付けとなる資産に影響が出ない構造(バンクラプシー・リモート)にする必要がある。次に、証券化の対象となる資産だが、理論的にはキャッシュフローを生み出すものならば可能と言われているが、証券化のメリットがあるかどうかは、それぞれの企業が置かれている状況や証券化する資産の種類によって変わってくるため、何でも簡単に証券化出来るわけではない。

一般的に証券化出来る資産の特性は、1)信用特性が理解し易い、2)キャッシュフローの予測が可能、3)償還期間が1年以上、4)支払遅延、貸し倒れ率が低い、5)対象が広範囲に渡り、流動性が高いものが理想とされる。つまり大数の法則を用いて、対象資産を分散させ、1資産(案件)当たりのリスクを小さくする事が必要となる。

証券発行体

原債権者が資産を裏付けとして資産担保証券を発行しようとする場合、まず資産を証券発行専門体(SPVSpecial Purpose Vehicle)に移し、この専門体が発行する形態をとる。原債権者から投資家へ債権を伝達すると言う意味で、導管体(Conduit)と呼ぶ事もある。SPVには特別目的会社(SPCSpecial Purpose Company)、信託、パートナーシップ、組合等の形態がある。SPVの設立主体もいくつか考えられ、それによって発行される証券の形態も変わる事になる。

原債権者自らがSPVを設定、設立する場合には、原債権者とSPVを完全に切り離しバンクラプシー・リモートにする事が重要になる。米国内ではグランター・トラスト方式がある。原債権者は債権をトラストに信託し、信託証書を受け取り、これを投資家に販売する。投資家は信託証書に基づき信託収益の配分を受け取る。または、証券の発行だけに機能を限定した特別目的会社を設立する方法もある

また、米国では証券化のスキームに精通した投資銀行が証券の引受会社になると同時に、SPVの設立にも直接関与する事がある。このようにして設立されるSPVを孤児会社(Orphan Company)と呼ぶ事がある。

証券発行の経済性

資産担保証券はリスクの度合いが最大の価格決定要因となる。リスクが大きいほど価格は下がり利回りが高くなる。証券利回りが対象資産の平均利回り(リース料債権)よりも高くなる場合には証券化するメリットは小さくなる。

信用補填

証券の発行者は資金の一時的な過不足、一定限度までの対象資産の損失発生に対処する為に信用補填方法を備えてリスクの軽減を図る必要がある。信用補填によって、証券の格付けの引き上げ、それに伴う発行金利の引き下げ、市場性の向上が実現する。

信用補填には発行者自らが行う内部信用補填と、第三者が行う外部信用補填がある。内部信用補填には、優先劣後構造、超過担保、スプレッド勘定が、外部信用補填には、信用格付けの高い銀行の信用状や、信用の高い企業の支払保証(Liquidity Facility)がある。

優先劣後構造とは、証券の発行にあたり配当、及び償還の優先権に差を付けた複数のクラスを設定する事を言う。超過担保は、資産価値に一定の掛け目を付けてその範囲内で証券を発行する事を言う。スプレッド勘定は、証券化した資産から発生するキャッシュフローが不足した場合に、投資家への支払を補う為に引き出す資金勘定でLiquidity Reserveとも呼ばれる。

以上、資産担保証券の発展の経緯、及び証券化の要点をまとめた。以下、航空機リース債権の証券化に絞って考察する。

 

 

動産リース

ETCEquipment Trust Certificate

動産リース資産を担保として発行される債券を米国市場では一般にETCと呼んでいる。80年代中ごろに登場するが、レッシーが自らの資金調達を目的としたものと、リース会社が自己のリース債権を担保として発行する2つのタイプがあった。

債権の利払い、及び償還はレッシーの支払能力に負うところが大きく、特に航空機リース債権を担保としたものは航空会社の与信力が低いために、市場の拡大には限界があった。

湾岸戦争を契機に、米国での破産法1110項(Chapter11-10)が見直され、本来の趣旨であった、輸送設備更新に係わるの資金調達を円滑化する為にレッサーの権利を保護する事が確認された事や、航空機の担保としての価値が再評価された事等が手伝い、航空機を対象としたETC市場に大きな変革がもたらされた。

EETCの仕組み

信用力の高い金融機関、リース会社等からLiquidity Facilityを設定して貰い、従来のETCの支払能力を外部信用補填したものを、EETCEnhanced Equipment Trust Certificate)と言っている。航空機の担保としての安定した価値評価が裏座さえとなっている。

米国での航空機のリポセッション期間を、レッシーの支払停止から60日ないし90日程度と想定しているのに対して、一般的なLiquidity Facilityの期間は18ヶ月の期間を設定している。これはリポセッション後、次のレッシーに転リースするまでの期間を、環境が最悪の状態であった場合を想定して定めたものと言える。

機体評価額に対して60%から70%の金額がEETCとして発行される。Liquidity Facilityを引き受けるリース会社等から見れば、まだ十分な担保力が当該航空機には見込めると判断しているのでEETCの仕組みが実現する。

残りの部分は航空会社が自己資金を使うか、ETCの時代から行われていたように、米国内のレバレッジドリースとして税務償却を目的とした投資家によって引き受けられる事もある。税務償却を目的とする場合には、その当該航空機が専ら米国内での旅客収入を目的とする事などの制限があるので注意を要する。いずれの場合にもレッシーから見れば事実上はファイナンスリースである。

同一のレッシー向けの、2機種程度、10機前後の機体数を一度にプールして、投資適格の格付けを付与した3種類程度の異なるクラスの証券を発行するのが一般的で、15年程度のリース期間中に発行された全ての証券が償還を迎える。期間中にディフォルトが発生すると、当該航空機は他にリースされるのではなく、売却の手続きが取られる。事前に航空機の売却手続き等を代行するサービサーは任命されない。

証券の利払い、及び償還は航空会社が支払うリース料を原資としている事から、EETCの格付けは航空会社の与信力(支払能力)に大きく依存している。その為、投資適格な格付けを取得出来るのは機体価値の60%から70%に限られ、自動的に内部信用補填として超過担保の状態となっている。

格付け向上の構造

アメリカン航空、デルタ航空(両社伴にトリプルBマイナス)を除く、米国の航空会社が発行する無担保債券の格付けがダブルBレベル(ジャンクボンド)であるのに対して、発行される最も低い格付けクラスのEETCは投資適格債としてトリプルBレベルである。

一例を挙げると、今年1月にクローズしたアトラス航空向けの案件(B747-400F2機)では、シングルBフラットのアトラス航空の無担保格付けに対して、機体担保(Chapter 11-10が弁護士意見書で確認されている)を付ける事で格付けはダブルBマイナスへ2ノッチ向上し、更に18ヶ月のLiquidity FacilityがダブルAプラスの銀行から付いた事で、機体価格評価額の39%までがダブルAマイナス、53%までがシングルAマイナス、68%までがトリプルBマイナスの格付けを取得出来ている。

米国以外への適用の現実性

米国以外の航空会社への同様な仕組みによるファイナンスは理論的には可能であるが、米国以外にChapter 11-10 Protection Rightのようなレッサーに有利な法制度と、豊富な権利行使事例がある国はない事から、昨年のイベリア航空のEETCEuro Enhanced Trust Certificate)のような事例はあるが、今までのところ経済的には成功していない。格付け機関としてはリポセッションを容認する法律が当該国に存在しても、その行使事例が豊富にないと、機体担保であることを理由として格付けを引き上げる方針がない事を明確に言っている。

 

 

航空機オペレーティングリースへの適用

ALPS

1992年にGPA社がAircraft Lease Portfolio Securitization (ALPS) 1992-1を発行したのが、オペレーティングリースに証券化を用いた最初の案件だった。以来、今日までに証券の発行額として約140億ドルのオペレーティングリースの証券化案件が実行されたと言われている。

ALPS 1992-1は期間5年の、3種類の異なるクラスの証券が発行された。クラスA1(発行額208.4百万ドル)、クラスA2(同104.2百万ドル)の上位2つのクラスはロンドン証券取引所に上場された。公募されたが上場されなかったクラスA3の発行額は70.4百万ドルであった。

英国領ジャージー島に設立された特定目的会社は上記3種類の証券以外に、クラスM、クラスBの証券を発行している。クラスMGPA社が引き受け、クラスBは米国のリース会社が引き受けている。GPA社から特定目的会社への機体売却価格は14機分で521百万ドル(ワイドボディー機が34.36%)で、そのうち6割が公募発行された事になる。

オペレーティングリース証券化の評価基準

オペレーティングリースの証券化案件は、現在ではPooled Aircraft Lease Securitization、もしくはAircraft Portfolio Securitizationと一般に呼ばれている。その発行の為の評価基準は、既に各格付け機関で確立されて来ている。

信用リスク分析では、各レッシーの与信力、担保となる航空機の将来価値予想、ポートフォリオとしてのレッシー、及び担保の分散度が基準となるが、合わせてオリジネーターの過去における業績(資産不良化の経験等)が検討される。

キャッシュフロー分析では、証券のディフォルトの可能性に付いて、レッシーのディフォルトのタイミング、レッシーのディフォルト率、回収可能性、機体回収期間、機体回収費用、再リース費用、機体駐機費用等に付いて詳細な検討がなされる。ここでもオリジネーターの、自己のポートフォリオでの経験(ディフォルト率等)が検討の対象となる。ポートフォリオが大きくなれば大きくなるほど、証券のディフォルトリスクは低下する。

法的リスク分析では、オリジネーター等からのバンクラプシーリモート、資産売却の法的真正性、担保契約の真正性、オリジナルのリース契約内容が検討される。

オペレーティングリースの証券化で最も重要視されるのは、発行時から選任されるサービサーのパフォーマンスである。EETCではオリジネーターである航空会社の支払能力が重要視されるのに対して、オペレーティングリースの証券化ではサービサー(殆ど場合オリジネーターがサービサーになる)のヒストリカルなパフォーマンス(機体を回収し、転リースした過去の実績)が最重要視される。

最近の傾向

初期のオペレーティングリース証券化案件は、レッシー、及び機体の分散化によるディフォルト率の低減、超過担保による機体売却からの高い回収期待を基にしたものだった。

現在では、オリジネーターの過去の実績に裏打ちされたデーターに基づき算出したディフォルトモデルを参考に証券のキャッシュフローが想定され、必要に応じ証券化の経済性を最大限引き出せる範囲内でLiquidity Facility等が設定され、想定される限りの状況下では証券自体のディフォルトは回避出来る仕組みになっている。

その為ALPS 1992-1では機体価格に対する証券化率が60%だったのに対して、最近の案件では85%〜90%が投資適格な格付けを受けた上で証券化されている。

下の表は最近GECASILFCがそれぞれオリジネーターとなった証券化案件を比較対照したものである。リース料の支払が停止している案件が含まれている事、エマージング市場に所在するレッシーの比率が高い事等のネガティブな個々の要因が、ポートフォリオを形成する証券化を阻むものではない事を示している。

  Aircraft Finance Trust Series 1999-1 Morgan Stanley Aircraft Finance 1997
機体数

36

34

平均機齢

4.7

6.8

狭胴機率

65

59.5

最大レッシー所在国

英国(21.8%)

米国(13%)

平均残存リース期間

5.0

3.8

エマージング市場率

21.8

52.3

アプレーザルに対する証券化率

86.8

90.5

製造者別機体構成比 Airbus / Boeing / MD / Others

20% / 70% / 10% / 0%

25% / 63% / 6% / 6%

リース料の支払が停止した機体

VAERIG (two B737-300s)

VASP (B737-300)

オリジネーター

GECC

ILFC、他

サービサー

GECAS

ILFC

発行金額、及びクラスと格付け

A1 US$511M    “AA”

A2 US$400M    “AA”

B  US$125M     “A”

C  US$105M  “BBB”

D   US$64M    “BB”

A-1 US$400M   “AA”

A-2 US$340M   “AA”

B-1 US$100M    “A”

C-1 US$100M  “BBB”

D-1 US$110M   “BB”

また、証券化によりポートフォリオを形成する事で、個々の機体リースとしては成り立ちにくい機種(例えば、B747A300F100等)の機体も、低いファイナンスコストを享受出来、効果的に機体残価リスクをマネージする事が可能となる。

発行される証券の償還期限は5年から25年に及ぶが、実際には経済的な理由から全ての証券が5年から10年以内に償還され、再度別の証券が発行される事になる。これは機体の残価が時系列に対して一直線に落ちていくのではなく減速して落ちていく事と、逆に機体価格に対するリース料率は次第に高くなる為、短期的に借り替えを繰り返した方が高い経済的効果を期待出来る為である。

 

 

まとめ

米国における航空機リースの証券化は、既に発達していた資産担保証券市場の一部分として発展してきた。その背景に米国では航空機リースを始め様々な資産が証券化され市場の規模拡大に貢献し、その為の各種制度がいち早く整備され直接金融の手法開発を促した事が大きく寄与している。

また、資産担保証券が特定の事業から発生するキャッシュフローを基に発行される証券である事からリスク分析が容易で、且つオリジネーターの資産から分離されている為、企業の買収、合併と言った外部要因からの影響を受けない事で、安定した格付けを維持出来る事も高く評価され市場拡大の要因となった。 

欧州や日本でも米国に習い市場拡大への整備が進められているが、米国が行って来たように資産流動化(証券化)を目的とした取引とそれ以外の取引を明確に区別し、資産流動化案件に優遇的措置を法的、税務的に講じることが求められる。

今のところ米国の航空会社にとって、EETCでの資金調達に勝る手法は登場していない。米国の航空会社は世界で最も低コストの調達資金の恩恵を享受している。クロスボーダーのファイナンスに対して厳格に源泉税を課す米国では、当面EETCに勝るファイナンス手法は登場しそうにない。米国の航空分野では直接金融が最大限活用されていると言える。

キャッシュフローをベースとした資産(事業)への直接金融による資金調達が進む事により、企業は自己の資産からは切り離した資産を使用して業務拡大を図る事が可能となって来ている。証券化の進展が単に金融市場を拡大するのではなく、様々な分野で新たな事業の拡大に貢献する時代が訪れようとしている。