航空機リース資産の証券化

1.資産の証券化
1.1証券化とは
企業の持つ債権や不動産などの資産を、信託銀行や特別目的会社(“SPC”)に売却、SPCがこの資産から生み出される収入(キャッシュフロー)を裏付けとして社債などの証券を発行するプロセスを指す。
1.2証券化の目的
資産の市場流動化による資金調達の多様化(コスト低減)、オフバランス化が上げられる。
1.3証券化の特徴
特定の資産の持つリスクを元の持ち主から切り離し、再構成する事にある。また、証券化の企画段階からトリプルAの格付け、ダブルAの格付けと言ったように、あらかじめ格付け目標を立て、目標格付けを取得出来るような仕組みを作り出す事になる。最初に格付けありきのスキームである。
まとまった数の同種類の債権(例えば、航空機リース債権、自動車ローン債権、クレジットカード債権等)が集められると、大数の法則から貸し倒れの比率は一定の範囲に収まる。過去の統計から債権が貸し倒れに陥る確率を求め、その数倍の貸し倒れが発生しても、例えばトリプルAの格付けのある証券の元利払いに資金が不足しない様に証券の商品設計をする事になる。
資産担保証券市場が発展した理由として、商品の標準化が進んだ事、同格付けの公社債より利回りが高く、格付けの変更とディフォルト率が低い事、MAや経営方針の変更など企業として内包しているイベントリスクを回避出来る事が上げられる。事実、アメリカでは高い格付けの社債に投資していても、その企業が買収された事により一夜にしてジャンクボンドになってしまったケースがある。

2.航空機リース資産
2.1プロセス
航空機リース資産を証券化する場合、通常SPCに複数のリース付き航空機を売却する事になる。SPCは購入資金の調達手段として債券を発行するが、期待出来るリース期間中のキャッシュフロー、担保掛目、リース終了時の元本回収リスク等を基準に、劣後関係を付けた複数種類の債券を、経済的効果が最大限になる様に組み合わせて発行する事になる。
2.2格付け
格付け機関はリース取引としてではなく市場で流通する“債券”として比較、格付けを行うので担保(回収リスク:機体価値)より、キャッシュフロー(信用リスク:レッシーの支払能力)を重視してくる傾向にある。
債券は格付けを得る事によって証券化された債権が“ユナイテッド航空のリース債権”、“GPAのリース債権”としてではなく、“トリプルAの債券”、“ダブルAの債券”として、債券市場を通じて投資家間でコモディティー化して取引される事になる。
3.証券化の手法
3.1手元資産だけでの証券化
予め目標とする格付けを取得すべく、複数のリース資産を選別する。SPCにそれらリース資産を売却する。SPCはそれらリース資産の購入の為、資金調達手段として債券を発行する。債券の発行額は、リース期間中にレッシーから受取るリース料から回収出来る金額が上限となる。残価リスクを負う部分は劣後債として、従来の資産保有者、もしくは第三者が引受ける。
リース期間中のキャッシュフロー(信用リスク)、担保掛目(回収リスク)等を基準に、優劣関係を付けた数種類の債券を、支払う金利の総額が最小になる様に組み合わせて発行する事になる。証券化で経済的効果が最大限に引き出せるかは、リース資産の何割を債券市場で流通する債券(流動化資産)に仕立てる事が出来るかでほぼ決まる。
債券は証券会社により引き受けられ目論見書が作成される。目論見書をもとに保険会社、投資信託、年金運用基金等が大口投資家として購入する事になる。
3.2信用補完を付与しての証券化
手元資産だけでの証券化に対して、一部支払に付き第三者からの与信枠(Liquidity Facility)を設定し債券の支払を補完したもの。与信枠は短期与信だが債券上の債権に対し劣後する事から、提供者は担保価値の評価が出来る銀行以外のファイナンス会社になる事が多い。
債券の格付けにあたっては、レッシーの支払能力、担保価値、それに与信枠設定者の信用力が考慮される。
具体的には、債券上の債務支払が停止した場合、与信枠から短期間(6ヶ月程度)に付き債券元本金額に付いて金利部分のみの支払が継続される。その間に担保となっている機体の売却手続きが取られ、債券の保有者は元本金額を回収する。与信枠が設定されている期間は金利のみだが支払いが継続される事から、担保からの必要回収金額の増加(債権の劣化)は生じない。
担保を処分した資金から債券の保有者が元本金額を回収した後で、与信枠の提供者は払い出した金利相当金額、及びそれを元本金額とする金利分を(劣後して)回収する事になる。従って、機体売却による資金回収が遅れれば遅れる程、与信枠からの金利相当金額の払い出しが増し、与信枠提供者の回収リスクは高くなる事から、与信枠提供者と再販代理人が兼務するケースが多い。
与信枠の設定に関わる費用(Commitment Fee)は発行者の負担となるが、与信枠提供者から支払われる事が期待出来るキャッシュフローが、レッシーからの通常のキャッシュフローに加わる事から、債券の信用力(格付け)を押し上げる効果が出て来る。従って、信用力の押し上げ効果による債券の利率低下が与信枠設定費用をカバーできるケースに用いられる手法となる。
金融市場の原理からすれば、与信枠設定による債券利率の引き下げはプラスマイナスゼロの経済効果となる筈だが、与信枠の提供者が銀行ではなく航空機の資産価値を格付け会社以上に評価する能力があり、またそれ自身が銀行に劣らない信用力を兼ね備えている場合(メーカー、商社、リース会社等)には、与信枠設定費用以上に債券利率の引き下げ効果が期待出来る事から、この手法が有利となる。
3.3短期債券による証券化
資産の流動化よりは、むしろ調達手段多様化としての性格が強いが、短期証券の引受、及び流通市場で資産担保証券(コマーシャルペーパー)を使って資金調達する事から、証券化(資産流動化)の部類に含まれる。
リース債権、及びリース資産を担保としたコマーシャルペーパーを発行する。通常の証券化で用いる債券は、リース満了まで再発行される事のない長期債券である事に対し、コマーシャルペーパーの償還期限は発行から3ヶ月程度で、これをリース満了まで元となるリース資産金額分、再発行し続ける事が異なっている。従って再発行金額は順次減額される事になる。
短期の資産担保債券である事から、通常証券化に用いられる長期の資産担保債券よりも低い金利、費用で発行出来る事が最大のメリットだが、長期(リース期間)に渡り短期債券市場で約3ヶ月毎に発行される債券に必ず引受手がいる保証はない。
債券市場での引受リスクを回避する為に銀行の融資枠を設定する事になる。銀行からの融資枠設定にはコミットメントフィーの支払が必要だが、長期の資産担保証券同様にコマーシャルペーパーも格付けを取得する為、引受がなされない可能性は極めて低く、出来上がり(短期債券の利率と銀行の融資設定枠に掛かる費用の合計)として長期の資産担保証券での利率と同等、もしくは低い利率、費用での資金調達が可能となる。
短期債券を用いる為に中途解約が容易で発行費用も安く、小中規模(1億米ドル未満程度)での発行が可能なのがメリットだが、銀行からの融資枠が設定出来る事が前提となる。