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航空事情 航空ビジネス講座

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◆航空会社のリスク − ケース・スタディー: 2003年大停電◆

 
2003年8月14日に起きた北米東岸の大停電による航空輸送への経済的影響は、冬場の大雪による運休と同程度だったのではと考えられている。米国の北東岸は毎年のように大雪の影響を受けているが、航空便の運航への影響というと、1967年の大雪に次いで20世紀で2番目にひどかったとされる1999年の1月1日から3日に掛けての大雪が思い出される。米国経済への影響は3億ドルとも4億ドルとも言われ、73人が亡くなった。

ノースウエスト航空では1月2日から4日までに、1,100便以上が運休し、乗客数千人に影響が出た。同社最大のハブ空港であるデトロイト空港では、離陸できない機内に長時間に渡り乗客が閉じ込められた。ターミナル・ビルに戻りたくても、既に空きがなかった。機内では食料もなくなり、トイレが故障し、特に幼児を伴った乗客や持病を持つ乗客には耐え難い環境だった。緊急隊員が機内に送られ、少なくとも2人が手当てを受けた。

同社では1月2日から4日の間にデトロイト空港で2時間半以上、出発便が遅れた乗客全てに、詫び状と無料の往復航空券を提供したが、乗客の中には、機内に閉じ込められた苦痛に対する損害賠償を求め、同社を訴えた乗客もいた。

ノースウエスト航空では1999年の大雪の教訓を基に、大雪、ハリケーンなどの大規模な自然災害による運航への障害に対応した手引きを作成した。今回の大停電で、ミネアポリス・セントポール空港にある、運航路線網全てを管轄する同社の管理センターは、その手引きに従い対応した。

連邦航空局(FAA)の広報は、ノースウエスト航空の大停電への対応は、明らかに他の大手航空会社とは異なったものだったと評価している。大停電発生直後、FAAはユナイテッド航空からニューヨーク地域の空港へ出発する同社便の離陸を認めないように要請された。コンチネンタル航空も同様に、クリーブランドへ向かう同社便の離陸を認めないように要請した。しかし、ノースウエスト航空はFAAに要請することはなく、デトロイト空港への運航便を路線網全体で自ら停止した。

デトロイト空港で停電が発生すると、空港職員と手荷物係は、停止したベルトコンベアから700個以上の受託手荷物を取り出し、カート(手押し車)に乗せて航空機に搭載した。彼らの努力が功を奏し、ターミナル・ビルと航空機を結ぶ搭乗橋や航空機に燃料を給油するポンプは作動しなかったものの、停電時の午後4時15分から同日深夜までに、ノースウエスト航空では50便がデトロイト空港を離陸、40便が着陸した。通常その時間帯には160便が離陸し140便が着陸している。

ノースウエスト航空の大停電への対応は、各地の空港が停電の影響を本社に報告した数分後に始まった。まず、運航管理、乗員管理、整備管理、広報、各地の空港を含めた50分に渡る電話会議が始まり、デトロイト空港での問題がひとつずつ検討された。

ターミナル・ビルと航空機を結ぶ電動式の搭乗橋が使えないが、デトロイト空港にはタラップ付のトラックが3台あることを確認した。航空機への燃料の搭載は、空港備え付けの電動式ポンプが作動しないが、燃料給油車を各スポットに回し順次、給油作業を行うことが可能だった。

停電発生時、デトロイト空港には25便が向かっていたが、到着した航空機で空港の駐機場などがあふれないように、停電の影響を受けていない他の空港に目的地を変更させた。

また、停電発生時、デトロイト空港にはアムステルダムからのノースウエスト航空53便(B747型機)とロンドン・ガトウイック空港からの同31便(DC10型機)が既に着陸していた。同空港での乗客の降機と手荷物の搬出には数時間掛かると判断し、そのまま両便はミネアポリス・セントポール空港に向かわせた。

この判断は正しかった。同じように14日午後4時31分に乗客230人を乗せて同空港に着陸したフランクフルトからのルフトハンザ・ドイツ航空442便は、乗客が降機する為のタラップが用意できず、2時間に渡りドアを開くことが出来なかった。また、入国審査もシステムが停止している為、全てが手作業で行われ、2時間程度掛かった。

1999年の大雪では空港職員が自宅から空港へ出勤できず、空港業務に支障が出た。今回の停電でも、託児所が閉鎖され子供を自宅に置いては出勤できない職員や、石油スタンドの給油ポンプが作動しない為、通勤に使う車に給油できず、出勤できない職員がでた。予測された職員の不足に対しては、サンフランシスコ空港の職員数人が名乗り出て、停電が起きた晩の深夜便でデトロイトに向かっていた。フィラデルフィア空港やメンフィス空港からも職員を派遣する申し出があった。

15日にはデトロイト空港を離陸した欧州やアジアへの国際線7便が、機内食を搭載する為に予定外の着陸を余儀なくされた。それを16日には避ける為、15日の夜、DC10型1機をデトロイト空港からミネアポリス・セントポール空港に飛行させ、翌朝、4便分の機内食を搭載してデトロイト空港に戻した。