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航空事情 航空ビジネス講座

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◆ボトム・ライン - ボーイング社とマクダネル・ダグラス社◆

 
突然の辞任
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ボーイング社は1日、フィリップ・コンディット会長兼最高経営責任者(CEO)の突然の辞任と、元社長兼最高執行責任者(COO)で、既に2年前に同社を退職していたハリー・ストーンサイファー氏の社長兼CEO就任を明らかにした。コンディット氏の辞任は、国防総省とのB767型機を改造した空中給油機の発注を巡るごたごたなどの責任を取ったものと見られている。

ボーイング社は24日、最高財務責任者(CFO)のマイケル・シアーズ氏と空軍出身のバイス・プレジデント、ダリーン・ドルーユン氏を解任していた。社内調査で、ドルーユン氏が空軍在籍中にシアーズ氏と接触していたことが分かり、同社の倫理規定に違反していたことを解任理由としている。

ドルーユン氏は、空中給油機のリース契約の受注交渉に関連し、競合していたエアバス社の価格に付いての情報を、ボーイング社に漏えいした疑いを持たれている。ボーイング社は7月にも、空軍の偵察・通信衛星打ち上げ用ロケットの受注を巡り、ロッキード・マーチン社の企業秘密を違法に入手し、契約解除の処分を受けている。

退職者の復活
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ストーンサイファー氏は1994年に会長兼CEOとして、マクダネル・ダグラス社に入社、同社の民間航空機分野からの撤退と、ボーイング社による買収を決断した人物だ。1997年のボーイング社によるマクダネル・ダグラス社の買収後は、ボーイング社の社長兼COOに就任するが、企業文化の違いからか、従業員からは嫌われる存在となる。

ボーイング社が発想で動く企業だと評されるのに対して、マクダネル・ダグラス社は常に最終損益(ボトム・ライン)を優先すると評される。ボーイング社はB747型ジャンボ・ジェット機の投入で、民間航空機市場での不動の地位を築いたが、ロッキード社との国防総省向けの輸送機商戦に敗れたことで、旅客機への転用を迫られた結果だったことはあまりにも有名な話だ。

しかも、生産開始当初は、搭載するエンジンの開発が遅れ、ジャンボ機を生産する為に新設したエバレット工場の外には、バランスを取る為のブロックにつながれた、エンジンのないジャンボ機が並んだ。言うまでもなく、この頃のボーイング社は、財務的に危機的な状況に追い込まれていた。

日本の重工メーカーからも、「ボーイング社はマクダネル・ダグラス社に、庇を貸して、母屋を取られた。」、と言われていたが、米国のメディアも最近、「マクダネル・ダグラス社は、ボーイング社の資金で、ボーイング社を買収した。」、と述べている。

雇用の維持
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マクダネル・ダグラス社のCEO時代、ストーンサイファー氏は、MD95型機(ボーイング社による買収後、B717型機に名称変更)の生産を、従来のロング・ビーチ工場から外注すべきとの考えを持っていた。テキサス州ダラスのダルフォード・アビエーション社へ外注するとした具体的な話すらあったが、結局、同氏は外注しなかった。

その時、ストーンサイファー氏は、同じロング・ビーチ工場での生産を予定していた、C17型輸送機(先日、バクダッド空港を離陸時にミサイル攻撃を受け、緊急着陸したジェット・エンジン4基を搭載した次世代大型主力輸送機)の生産を軌道に乗せるには、同工場従業員の協力が欠かせないと判断、民間機の外注を見送り、雇用の維持を優先したとされている。

民間航空機の利益率は低いが、その採算性だけを優先して、従業員との軋轢を起こし、比較的に利益率の安定した国防総省向けのビジネスで、失敗を招くことは許されないと判断したとされている。

嫌われ者
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2000年初めにボーイング社の従業員が39日間のストライキを行った際、ボーイング・フィールドの横に設けられた仮設トイレには、"ハリーズ・オフィス"(ハリー・ストーンサイファー社長の執務室)と書いた紙が張られた。

また、昨年、ストーンサイファー氏が退職した際、シアトル地区の従業員組合の広報は、「同氏の退職を残念とは思わない。同氏がボーイング社にやってきて以来、短期的な利益や株価が上がることばかりを重視するようになった。同氏が退職することで、いい方向へ向かうことを期待している。」との声明を出していた。

そのストーンサイファー氏が予想外にもCEOに復活したことは、当然のことながら、周りを騒然とさせた。しかし、7E7型機の開発に付いて、ダグラス取締役と伴に、役員会では厳しくその採算性を追及するだろうとされていた同氏は、早々に開発支持を表明した。14日と15日の役員会では、同氏は採算性を追及する側から、役員らを説得する側に回ることになった。

従業員との関係に付いても、就任時の記者会見で、関係を改善することが急務だと述べている。ボーイング社の執行役員らは、8ヶ月間に渡る7E7型機の最終組み立て工場地の選定を、現在、同社のワイド・ボディー機を生産するエバレットとしたことを、ストーンサイファー氏に報告した。同氏も、過去の経験からか、意外にも同意したとされている。

しがらみから大局へ
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ボーイング社は2001年に、長年に渡り本社や生産拠点を置いていたシアトル地域から、本社をシカゴに移した。また、同社の役員会を構成する11人の取締役は、12月に一部が入れ替わり、シアトル地域との関係の深い人物がいなくなった。完全にしがらみから解き放たれたにもかかわらず、シアトル近郊のエバレットに7E7型機の組み立て工場を設けるのは、決して採算面からだけの判断ではないとされている。

もしも、7E7型機の組み立て工場地にエバレットが決まれば、スキャンダルが発覚し、危機的な状況にある現在、ボーイング社が何よりも必要としているのは、従業員との協調だと判断したことの証だろう。本社をシカゴに移した時のように、移転先では税制面などで有利な条件を引き出すことが期待できる。7E7型機の組み立て工場で雇用を予定しているのは千人程度で、他に決まってもシアトル地域での大きな雇用の損失とはならないが、その地域で雇用されている従業員にしてみれば、次世代機が同地域で組み立てられることの、将来的な発展性への意義としては深いものがある。

買った筈のボーイング社の影が薄れ、ボトム・ライン(最終損益)を重視するマクダネル・ダグラス社の色彩が濃くなっているのは、企業経営に於いては常にボトム・ラインの改善が求められることが、より重要になって来ていることを意味しているようだ。また、時に企業経営者が、ボトム・ラインを忘れ、大局からの判断を迫られることは、財務諸表などのデータだけを手掛かりにしていては、必ずしもボトム・ラインを改善することが出来ないことを暗示しているようだ。

イブの発表
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ボーイング社の広報は、14日と15日の役員会で決まったことを、16日まで明らかにしないとしている。また、ストーンサイファー氏は16日、密かにシカゴからシアトルへの出張を予定しているとされる。シアトルの従業員組合関係者は、ストーンサイファー氏は16日、シアトルで従業員との会合に出席した後、記者会見に臨むとしている。

17日はライト兄弟の初飛行から100年目だが、そのイブとなる16日、ボーイング社は何をどこで、どのように発表するのだろうか。日本の重工メーカーも35%を生産することになる7E7型機の開発だけに、必ずその発表の模様は日本のメディアでも報道されるだろう。楽しみだ!

(補足: ストーンサイファー氏は65歳でボーイング社を退職後も、同社取締役にある。)